「毎月の通院と薬代、地味にきつい」——発達障害で精神科や心療内科に通っている方なら、一度はそう思ったことがあるのではないでしょうか。
僕自身、ADHDの診断を受けてから定期的に通院していますが、診察と薬を合わせると毎月それなりの出費になります。働きながらでも負担に感じるくらいなので、休職中や転職活動中の方ならなおさらだと思います。
でも、その通院費や薬代、制度を使えば原則1割の負担まで軽くできる可能性があります。それが「自立支援医療(精神通院医療)」です。発達障害も対象になりうるのに、案外知られていません。僕の周りでも「申請してなかった、もっと早く知りたかった」という声をよく聞きます。
この記事を読むと、自立支援医療がどんな制度なのか、自分が対象になりそうか、いくらくらい安くなるのか、どう申請すればいいのか、そして見落としがちなデメリットまでが一通りわかります。お金の不安を少しでも減らして、無理なく通院を続けるための参考にしてください。
なお、最初にお伝えしておくと、僕は医療や行政の専門家ではなく、あくまで当事者の一人です。制度の数値や条件は法改正や自治体によって変わります。この記事は2026年6月時点の公的情報をもとにした一般的な解説なので、最終的な可否や金額は必ず主治医とお住まいの自治体の窓口で確認してください。
自立支援医療(精神通院医療)は、障害者総合支援法に基づく公費負担医療制度です。ざっくり言うと、精神疾患で継続的に通院している人の医療費の自己負担を、原則3割から1割まで軽くしてくれる仕組みです。
対象になるのは、通院による精神医療を続ける必要がある人。厚生労働省の説明では、統合失調症やうつ病、双極性障害、てんかんなどに加えて、発達障害も含まれるとされています。つまり、ADHDやASD(自閉スペクトラム症)で定期的に通院している場合、対象になりうるということです。
ただし「発達障害だから自動的に使える」わけではありません。あくまで通院による継続的な治療が必要と医師が判断していることが前提になります。診断を受けただけで通院していない、というケースだと対象から外れることもあるので、ここは主治医に相談するのが確実です。
「診断はもらったけど、薬は飲んでいないし通院も数か月に一度くらい」という方もいると思います。そういう場合に使えるかどうかは、主治医の判断次第です。気になったら遠慮なく聞いてみてください。
対象になる医療の範囲も、すべての医療費ではなく「精神疾患の治療に関わるもの」に限られます。具体的には、精神科・心療内科での診察、処方される薬、デイケア、訪問看護などです。風邪で内科にかかった費用や、まったく別の病気の治療は対象外です。この線引きはあとで申請の話とつながってくるので、頭の片隅に置いておいてください。
ここが一番気になるところだと思います。結論から言うと、効果は2つの段階で効いてきます。
通常、健康保険を使っても窓口での自己負担は3割です。自立支援医療が適用されると、これが原則1割になります。
たとえば、診察と薬を合わせて医療費が月1万円かかっている場合で考えてみます。
通常(3割負担) | 自立支援医療(1割負担) | |
|---|---|---|
医療費の総額 | 10,000円 | 10,000円 |
窓口での自己負担 | 3,000円 | 1,000円 |
単純計算で、毎月の負担が3分の1になります。年間で見れば2万4千円ほどの差です。通院が長く続く人ほど、この差は効いてきます。
1割になるだけでも大きいのですが、自立支援医療にはもう一つ、世帯の所得に応じた月額自己負担上限額という仕組みがあります。1割負担にした上で、さらに「月にこれ以上は払わなくていい」という上限が設定されるイメージです。
通院回数が多かったり、薬の種類が多かったりして医療費がかさむ人にとっては、この上限がセーフティネットになります。
所得区分ごとの月額上限の目安は、おおむね次のとおりです(金額は2026年時点の制度をもとにした一般的な区分です)。
所得区分(世帯) | 月額自己負担上限の目安 |
|---|---|
生活保護世帯 | 0円 |
市町村民税 非課税・本人収入が一定額以下(低所得1) | 2,500円 |
市町村民税 非課税・本人収入がそれを超える(低所得2) | 5,000円 |
市町村民税が一定額未満(中間所得1) | 医療保険の高額療養費の限度額(※「重度かつ継続」なら5,000円) |
市町村民税が一定額以上(中間所得2) | 医療保険の高額療養費の限度額(※「重度かつ継続」なら10,000円) |
市町村民税が高額(一定所得以上) | 原則対象外(※「重度かつ継続」なら20,000円) |
※「重度かつ継続」というのは、継続的に相当額の医療費がかかると見込まれる場合などに適用される区分です。該当するかどうかは医師の判断によります。「一定所得以上」で重度かつ継続にあたる方の月額上限2万円は、令和9年(2027年)3月末までの経過的な特例として設けられているものです。
ここで一つ注意してほしいのが、上限額を決める「世帯」の考え方です。これは住民票上の世帯ではなく、同じ医療保険に加入している人を一つの単位として見ます。たとえば、自分が親の扶養に入っているか、自分で国民健康保険に入っているかで、判定される所得の範囲が変わります。「実家暮らしだけど自分の収入は少ない」といったケースでは、どの区分になるか窓口で確認してみてください。
それから、収入区分の基準額は近年見直しが入っています。たとえば市町村民税非課税世帯で月額上限2,500円になる「低所得1」の収入基準は、令和7年(2025年)7月以降、本人の収入が80万円以下から80万9千円以下に変更されました。こうした基準はちょこちょこ動くので、最新の数字は自治体の窓口で確認するのが確実です。
正直、僕も最初にこの所得区分の表を見たときは「自分はどこに当てはまるんだ」と混乱しました。細かい判定は窓口でやってくれるので、まずは「1割になる」「さらに月の上限がある」の2点だけ押さえておけば十分だと思います。
ここまで読んで、「使えそうだな」と思った方も多いのではないでしょうか。では具体的にどう申請すればいいのか、次の章で順番に見ていきます。
申請の窓口は、お住まいの市区町村の担当課(障害福祉課や保健所、保健センターなど、自治体によって名称は異なります)です。手続きの流れは、おおまかに次のようになります。
自治体によって細部は違いますが、一般的に必要になるのは次のような書類です。
診断書には文書料がかかります。金額は医療機関によりますが、数千円程度が一般的です。「軽くするための申請にお金がかかるのか」と思うかもしれませんが、通院が続くなら数か月で元が取れる計算になることが多いです。
申請から受給者証が手元に届くまでには、数週間から数か月かかることがあります。その間の医療費の扱い(後から払い戻せるかなど)は自治体によって異なるので、申請時に窓口で確認しておくと安心です。
自立支援医療は、あらかじめ登録した医療機関と薬局でしか使えません。申請のときに「通院する病院」「薬を受け取る薬局」を指定して登録する必要があります。受給者証を窓口で見せることで、1割負担が適用される仕組みです。
ここを知らずに、登録していない薬局に行ってしまって通常の3割で払った、というのはよくある話です。後述しますが、この「登録制」が制度の地味なデメリットでもあります。
なお、書類をそろえる前段階として、そもそも診断を受けるかどうかで迷っている方もいると思います。診断のメリット・デメリットについては発達障害の診断を受けるべきか|エンジニアとしてのメリット・デメリットで当事者目線でまとめているので、あわせて読んでみてください。
受給者証の有効期間は、原則1年間です。つまり、一度申請して終わりではなく、継続して使いたい場合は毎年の更新手続きが必要になります。
ここがADHD的に一番の鬼門だと、僕は思っています。1年に一度の手続きって、忘れる自信しかありません。実際、有効期限を過ぎてしまうと「再開申請」という扱いになり、診断書の再提出が必要になるなど、手間が増えてしまいます。
更新の手続きは、有効期限のおおむね3か月前から受け付けている自治体が多いです。期限が近づくと案内が届く場合もありますが、届かないこともあるので、自分でリマインダーを設定しておくのが安全です。僕はスマホのカレンダーに「自立支援更新」と毎年同じ時期に繰り返しの予定を入れています。
更新時の診断書については、少し朗報があります。新規申請では毎回診断書が必要ですが、継続(更新)の場合は原則2年に1度の提出でよいとされています(自治体や状況により異なります)。毎年診断書代がかかるわけではないので、その点は負担が軽めです。
更新を忘れないこと、ここだけ気をつければ、あとは年1回の更新で長く使える制度です。
メリットが大きい制度ですが、もちろん万能ではありません。申請する前に知っておきたい注意点を、正直にまとめておきます。
1. 医療機関・薬局が登録制で、自由が利かない 前述のとおり、利用できるのは登録した病院・薬局だけです。引っ越しや転院、薬局を変えたいときには変更手続きが必要になります。旅行先や出張先でいつもの薬がなくなった、というときに登録外の薬局では使えないので、ここは少し不便です。
2. 対象は「精神疾患の治療」に限られる あくまで精神通院医療が対象です。発達障害の治療とは関係ない病気(風邪、ケガ、歯科など)の費用は1割になりません。「医療費が全部安くなる制度」ではない、という点は誤解しないようにしてください。
3. 申請の手間と診断書代がかかる 書類をそろえて窓口に行く必要があり、診断書には文書料がかかります。とはいえ、これは初回の一時的なコストです。
4. 所得が高いと対象外になる場合がある 世帯の市町村民税が一定以上の場合、「重度かつ継続」に該当しないと対象外になることがあります。共働きで世帯収入が高い、扶養に入っている相手の収入が高い、といったケースでは効果が薄かったり使えなかったりします。
5. 更新を忘れると面倒 年1回の更新を逃すと再申請になります。先ほど書いたとおり、ここはリマインダー必須です。
それと、よくある不安として「自立支援医療を使うと、職場や周りに知られるのでは?」というものがあります。自立支援医療の利用そのものが、勤務先に自動的に通知されるような仕組みではありません。ただ、健康保険の種類によっては医療費のお知らせ等で家族に通院がわかる可能性はゼロではないので、気になる方は加入している保険の運用を確認しておくと安心です。
発達障害に関わる制度として、自立支援医療のほかに「精神障害者保健福祉手帳」や「障害年金」があります。混同しやすいので、ざっくり整理しておきます。
制度 | 主な役割 |
|---|---|
自立支援医療 | 通院・薬の医療費の自己負担を1割に軽くする |
精神障害者保健福祉手帳 | 税の控除、公共料金の割引、障害者雇用枠での就労などの幅広い支援を受けやすくする |
障害年金 | 障害によって生活や就労が制限される場合の金銭的な給付 |
役割がそれぞれ違うので、これらは併用できます。たとえば「自立支援医療で通院費を軽くしつつ、障害者手帳で税控除を受ける」といった使い方が可能です。
実務上のうれしいポイントとして、自立支援医療と精神障害者保健福祉手帳は診断書を共通の様式で申請できる場合があるとされています(自治体による)。両方を検討しているなら、まとめて申請すると診断書代や手間を節約できることがあるので、窓口で聞いてみてください。
手帳について「取るべきか迷っている」という方は、メリットとデメリットを当事者目線で整理した障害者手帳のメリット・デメリット|発達障害で取得を迷っている方への完全ガイドが参考になると思います。
Q. 発達障害(ADHD・ASD)だけでも申請できますか? A. 発達障害も自立支援医療(精神通院医療)の対象に含まれるとされています。ただし、継続的な通院治療が必要だと医師が判断していることが前提です。まずは主治医に相談してください。
Q. グレーゾーンや診断がはっきりしない場合は? A. 対象になるかは医師の判断によります。通院して治療を続けている実態があるかどうかがポイントになります。気になる場合は通っている医療機関に確認するのが確実です。
Q. うつや不安障害などの二次障害でも使えますか? A. うつ病や不安障害なども精神通院医療の対象とされています。発達障害の二次障害として通院している場合も、対象になりうると考えられます。二次障害そのものを防ぐ視点については発達障害の二次障害を防ぐ方法|うつ・不安障害になる前に知っておきたい予防と対処法もあわせてどうぞ。
Q. 申請してから使えるようになるまで、どのくらいかかりますか? A. 自治体によりますが、受給者証の交付まで数週間から数か月かかることがあります。その間の医療費の扱いは窓口で確認してください。
Q. 引っ越したらどうなりますか? A. 自治体をまたぐ引っ越しでは手続きが必要になります。受給者証は住んでいる自治体が交付するものなので、転居先での手続きを忘れないようにしてください。
自立支援医療で通院費の負担が軽くなると、心とお金に少し余裕ができます。その余裕ができたタイミングで、「これからの働き方」を考え始める方も多いと思います。
通院しながら無理なく働きたい、特性に合った職場に移りたい——そう感じているなら、発達障害の特性を理解した専門の支援を一度のぞいてみるのも一つの手です。自分で求人を探すより、特性の伝え方や配慮の相談まで一緒にやってもらえるぶん、気持ちがだいぶ楽になります。
サービス | 特徴 | こんな人におすすめ |
|---|---|---|
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最後に、この記事のポイントを整理します。
僕がこの制度を知ったとき、率直に「なんでもっと早く教えてくれなかったんだ」と思いました。発達障害にまつわる支援制度は、こちらから知って、申請して、初めて使えるものがほとんどです。待っていても向こうから案内が来るわけではありません。
通院費の負担が重いと感じているなら、まずは次の通院のときに主治医へ「自立支援医療って使えますか?」と一言聞いてみてください。それだけで、毎月の支出がぐっと軽くなるかもしれません。
繰り返しになりますが、この記事は2026年6月時点の一般的な情報です。所得区分の金額や基準、必要書類は法改正や自治体によって変わります。最終的な可否や金額は、必ず主治医とお住まいの自治体の窓口で確認してください。
参考にした主な出典:
この記事は個人の体験に基づくものであり、医療的なアドバイスではありません。 発達障害の診断や治療については、必ず専門医にご相談ください。 また、記載されている情報は執筆時点のものであり、最新の情報と異なる場合があります。
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