「刺激がほしくて新しいことに飛びつくのに、いざ環境が変わると怖くてたまらない」 「興味があちこちに移るのに、特定のやり方には異常なほどこだわってしまう」
もしこんな矛盾を自分の中に感じていて、「自分はADHDなのかASDなのか、どっちなんだろう」と混乱しているなら、その感覚は決しておかしなものではありません。ADHDとASD、両方の特性を併せ持っている方は、実は珍しくないからです。
僕はADHDと診断されたフロントエンドエンジニアです。ADHD単体でも仕事の段取りには散々苦労してきましたが、併発している方の話を聞くと、「アクセルとブレーキを同時に踏んでいる感覚」という表現が出てくることがよくあります。これは単体の困りごととはまた違う、併発ならではのしんどさだと感じています。
この記事では、ADHDとASDを併発するとはどういうことなのか、仕事で起きやすい固有の困りごと、そして相反する特性とどう折り合いをつけて働いていくかを、できる限り事実ベースで整理しました。読み終わるころには、「自分の中の矛盾」に少し説明がついて、次にどこへ相談すればいいかが見えているはずです。
まず大前提として、ADHDとASDを両方持っていることは、医学的にきちんと認められた状態です。
少し前までは、そうではありませんでした。1994年に公表された診断基準「DSM-IV」では、ADHDとASD(当時は広汎性発達障害などと呼ばれていました)は相互排他的とされ、片方と診断されたらもう片方の診断はつけられない決まりだったのです。
これが変わったのが、2013年に公表された「DSM-5」です。ここで初めて、ADHDとASDの併記診断(両方の診断が同時につくこと)が公式に認められました。つまり「両方ある」という状態は、比較的最近になってようやく正式に認知されたものなのです。だから、これまで自分の特性をうまく説明できずに苦しんできた方が多いのも、当然と言えば当然なのかもしれません。
※DSM-5は米国精神医学会が定める診断基準です。日本でも広く使われており、現在は改訂版のDSM-5-TRが用いられています。
「両方なんて自分くらいじゃないか」と感じる方もいるかもしれませんが、数字で見るとそうではありません。
研究によって幅はありますが、ASDのある人の30〜80%がADHDの症状を満たすと報告されており、多くの研究では40〜70%程度に収束すると整理されています。逆に、ADHDのある人のうち20〜50%がASDの特性を持つとも報告されています(出典: neuro-tokyo「ADHDとASDの併存ガイド」、渋谷駅前心療内科ハロクリニック)。
数字の幅が大きいのは、研究の対象や測り方が違うからで、ここでは「正確に何%」と断定するつもりはありません。ただ、はっきり言えるのは、ADHDとASDの併発は決して特殊なケースではなく、むしろよくある組み合わせだということです。近年では、両方を併せ持つ状態を「AuDHD(オーディーエイチディー)」という呼び方で語る人も増えてきました。
ここまで読んで、「やっぱり自分にも両方の心当たりがある」と感じた方もいるかもしれません。では、その併発が仕事の場面で具体的にどんな困りごとを生むのか。次の章で見ていきます。
ADHD単体、ASD単体の困りごとは、それぞれ世の中にたくさん情報があります。けれど併発の本当のしんどさは、それぞれの特性を足し算したものではありません。相反する特性が同じ自分の中で同時に動くこと、これが核心です。
ADHDには「刺激や新しいことを求める」「興味が次々に移る」といった傾向があり、ASDには「予測できる環境を好む」「特定のやり方に強くこだわる」といった傾向があるとされています。この二つが同居すると、次のような葛藤が生まれます。
ADHD側の特性 | ASD側の特性 | 同居すると起きる葛藤 |
|---|---|---|
刺激・変化を求める | 予測できる環境を好む | 新しいことに飛びつきたいのに、いざ環境が変わると強い不安に襲われる |
刺激を求めて動き回る | 感覚過敏で刺激に弱い | 退屈は耐えられないのに、人混みや騒音ですぐ消耗してしまう |
興味があちこち移る | 興味の対象に強くこだわる | 飽きっぽいのに、ハマったことには極端に固執して切り替えられない |
思ったことがすぐ口に出る | 相手の意図を読み取りにくい | 悪気なく発した一言で、知らないうちに人を傷つけてしまう |
細部より勢いで進めたい | 細部まで完璧に仕上げたい | 「もう次に行きたい」と「まだ終わっていない」が頭の中でぶつかる |
このうち「過集中と注意散漫の同居」は特に分かりにくいパターンです。興味のある対象には何時間も没頭できるのに、それ以外のことには極端に注意が散ってしまう。同じ人の中でこの両極端が起きるので、周囲からは「やればできるのにサボっている」と誤解されやすく、本人も「自分は一体どっちなんだ」と混乱します(参考: neuro-tokyo「ADHDとASDの併存ガイド」)。
正直に言うと、この「自分の中の矛盾」が一番つらいところだと思います。一つの方向にまっすぐ困っているなら対策も立てやすいのですが、アクセルとブレーキを同時に踏んでいると、何が問題なのか自分でも掴みづらい。だからこそ、まずは「これは併発によくある葛藤なんだ」と知っておくだけでも、少し気持ちが楽になるはずです。
もしこの矛盾が原因で、毎日の仕事がうまく回らず消耗しきっているなら、特性の整理を専門家と一緒にやってみる選択肢があります。発達障害の特性を理解した転職エージェントなら、相談は無料で、「自分でも説明しづらい困りごと」を一緒に言語化してくれます。
併発している方が職場でぶつかりやすい壁は、ADHDとASDの困りごとが「両方」出てくることにあります。片方だけなら回避できる場面でも、もう片方が足を引っ張る、という形でつまずきやすいのです。
僕がADHD当事者として特に共感するのが、次のような場面です。
こうした困りごとが重なると、仕事そのものより「自分を保つこと」にエネルギーを使い果たしてしまいます。そうなる前のサインや、消耗しきってしまったときの向き合い方については、ADHDで仕事が続かない原因と対策もあわせて読んでみてください。続かない原因が「能力」ではなく「特性と環境のミスマッチ」にあることが見えてくるはずです。
ここまで困りごとばかり書いてきましたが、相反する特性は弱点だけではありません。ASD側の探究心で深めた専門知識を、ADHD側の発想力で別の分野に応用する。ADHD側の行動力でつかんだチャンスを、ASD側の計画性で着実に形にする。こうした掛け合わせは、片方だけの人にはなかなか出せない独自の成果につながります(参考: Fracara「ADHD×ASD併存タイプが適職を見つける方法」)。
僕自身、エンジニアという仕事はADHDの「次々試したい」とASD的な「仕組みを徹底的に詰めたい」が、たまたま噛み合った領域でした。問題は特性そのものではなく、それがハマる場所を見つけられるかどうかだと思っています。
では、相反する特性とどう付き合って働いていけばいいのか。大事なのは、すべての困りごとを直そうとしないことだと感じています。アクセルもブレーキも全部コントロールしようとすると、それだけで燃え尽きてしまうからです。
併発していると困りごとが多すぎて、何から手をつけるか分からなくなります。だからこそ、「今いちばん仕事に支障が出ているのはどれか」を一つか二つに絞るのが現実的です。
たとえば「感覚過敏による消耗」が最大の問題なら、対人スキルの改善は一旦後回しにして、まず環境調整に集中する。全部を平均的に底上げしようとせず、効くところから攻める。これは弱点を放置するという意味ではなく、限られたエネルギーをどこに配分するかという話です。
特性は変えにくくても、環境はわりと変えられます。
在宅勤務は、刺激過多と対人疲労の両方を一度に減らせるので、併発の方とは特に相性がいい働き方だと感じています。僕自身、フルリモートに切り替えてから消耗が大きく減りました。
2024年4月から、改正障害者差別解消法により、民間の事業者にも合理的配慮の提供が法的に義務づけられました(出典: 政府広報オンライン、内閣府)。合理的配慮とは、障害のある人が働くうえでぶつかる障壁を取り除くための調整や変更のことです。
視覚的な資料やマニュアルで指示してもらう、相談できる担当者を置いてもらう、静かな環境を用意してもらう——こうした配慮を、事業者に求めることができます。
配慮を求めるには、自分の特性と必要な調整を相手に伝える必要があります。具体的な伝え方や進め方は、職場で実践できる形でまとめた記事があるので、就労移行支援とは?とあわせて、相談先の選び方から確認してみてください。
併発で困難が大きい方ほど、一人で抱え込まず、専門の支援につながる効果が大きいと感じています。就労移行支援では、自分の特性を整理し、自分に合った働き方を一緒に組み立てるところから始められます。配慮のある職場への転職を考えるなら、発達障害に強い転職エージェントが、特性に合った求人を一緒に探してくれます。
「自分はADHDなのかASDなのか、両方なのか」とずっと悩んでいるなら、正確な特性理解には専門家の評価が役立ちます。診断ができるのは医師だけですが、診断の有無にかかわらず、特性を客観的に整理してもらうこと自体に意味があります。診断を受けるかどうか迷っている方は、発達障害の診断を受けるべきか|エンジニアとしてのメリット・デメリットも参考になるはずです。
ここまで読んで、「相談してみてもいいかもしれない」と少しでも思えたなら、その気持ちが動いたタイミングが一番動きやすいときです。次の章で、具体的な相談先を整理します。
「自分に合った職場が見つからない」「特性をどう伝えればいいか分からない」「そもそも自分の特性をうまく整理できていない」
併発していると、こうした悩みが一つではなく重なって出てきます。そんなときは、発達障害の特性を理解した専門の窓口に相談してみてください。いずれも無料で利用でき、あなたの困りごとを一緒に言語化し、強みを活かせる方向を探してくれます。
サービス | 特徴 | こんな人におすすめ |
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障害者雇用の求人数が業界最大級。発達障害に詳しいアドバイザーが在籍 | 選択肢を広げて、配慮のある職場をじっくり探したい方 | |
障害者の転職支援実績No.1。入社後の定着支援も手厚い | 相談から定着まで、伴走してもらいたい方 |
どちらも無料で利用できます。「両方の特性があって、自分でもうまく説明できない」という段階でも大丈夫です。まずは気軽に話してみてください。
働く土台から整えたい、まずは生活リズムや特性整理から始めたいという方は、就労移行支援という選択肢もあります。詳しくは就労移行支援とは?で、仕組みと選び方を確認してみてください。
あります。2013年のDSM-5以降、両方の診断が同時につくこと(併記診断)が公式に認められています。それ以前は片方しか診断できませんでしたが、現在は併発が正式に認知されています。ただし、診断ができるのは医師だけです。気になる場合は精神科や心療内科などの専門機関に相談してください。
併発している場合、相反する特性が同時に出るため、自分でも判別がつきにくいのは自然なことです。「どっちか」を自分で決めようとするより、専門家に特性を客観的に整理してもらうほうが、結果的に対策を立てやすくなります。ASD特有の困りごとが大きいと感じる方は、ASD(自閉スペクトラム症)の転職完全ガイドも参考になります。
そんなことはありません。困りごとは多くなりがちですが、環境を調整し、合理的配慮を得て、相反する特性を強みに転換できる場所を見つければ、十分に働き続けられます。実際、自分に合った働き方にたどり着いた当事者はたくさんいます。どんなエージェントが自分に合うか比べたい方は、発達障害向け転職エージェント7社比較もあわせてどうぞ。
ADHDとASDの併発は、決して特殊なものではありません。むしろよくある組み合わせで、2013年以降は医学的にも正式に認められています。
つらいのは、相反する特性が同じ自分の中で同時に動くこと。「刺激がほしいのに変化が怖い」「飽きっぽいのにこだわりが強い」——この矛盾は、あなたの性格の問題でも甘えでもなく、併発という特性から自然に生まれるものです。
だからこそ、全部を直そうとしなくていいと思っています。困りごとに優先順位をつけ、環境を自分に合わせ、合理的配慮を活用し、必要なら専門の支援につながる。この順番で、無理のない働き方は少しずつ形になっていきます。
「自分でもうまく説明できない」その状態のまま、専門家に話してみるところからで構いません。一人で矛盾を抱え込んでいた時間より、ずっと楽になるはずです。
「ADHDもASDもある気がして、自分でも混乱している」 「どんな職場なら無理なく働けるのか分からない」
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この記事は個人の体験に基づくものであり、医療的なアドバイスではありません。 発達障害の診断や治療については、必ず専門医にご相談ください。 また、記載されている情報は執筆時点のものであり、最新の情報と異なる場合があります。
社会人になってからADHDの診断を受けた当事者。地方在住でフルリモート勤務、年収800万円のフロントエンドエンジニア。転職5回の経験から、発達障害のある方のキャリア形成に役立つ情報を発信。
運営者情報の詳細を見る発達障害(ADHD・ASD)で人と関わらない仕事・一人でできる仕事を、対人接触の少なさ別に9職種紹介。在宅・現場・フリーランスの働き方と、孤立を防ぐ注意点まで、ADHD当事者エンジニアが本音で解説します。