「またこの職場も続かなかった」「自分はどこに行っても長く働けないんじゃないか」
ASD(自閉スペクトラム症)のある方で、こんなふうに自分を責めてしまう方は少なくありません。一つひとつの仕事は真面目にこなしているのに、気づくと心がすり減って、出社するのがつらくなる。そして辞めてしまう。それを何度か繰り返すうちに、「続かないのは自分がダメだからだ」と思い込んでしまう。
最初にお伝えしておきたいことがあります。仕事が続かないのは、あなたの根性が足りないからでも、能力が低いからでもありません。多くの場合、それはASDという特性と、いま働いている環境とのミスマッチから起きています。
私自身はADHDと診断されたエンジニアで、ASDの当事者ではありません。ただ、同じ発達障害という地続きの場所にいる人間として、暗黙のルールに消耗する感覚も、予定が崩れたときの混乱も、人といるだけで体力が削られる疲れも、想像ではなく実感として理解できます。だからこそ、「気合いでなんとかしろ」とは絶対に言いたくないのです。
この記事を読むと、ASDの方が仕事を続けにくくなる5つの原因を、特性のレベルで具体的に理解できます。そのうえで、いまの環境でできる工夫と、「合う環境を選び直す」という選択肢の両方が見えてきます。続けるための答えは、自分を変えることだけではありません。
まず、ここをはっきりさせておきたいと思います。
ASDのある方が仕事を続けにくいのは、「予測可能で安心できる状況」を必要とする特性と、「曖昧で、変化が多くて、人付き合いを前提にした」一般的な職場が、構造的に噛み合っていないからです。これは性格や努力の問題というより、合わない靴で毎日走らされているような状態に近いと感じます。
合わない靴で走り続ければ、誰だって足を痛めます。それでも「走れない自分が悪い」と思ってしまうのが、ASDのある方が陥りやすい落とし穴です。
ASDのある方は、過去のつまずきを正直に、そして強く記憶している方が多い印象があります。だからこそ、転職を繰り返すうちにこんな悪循環が生まれやすいのです。
この輪の中にいると、原因が「自分の人格」にあるように感じてしまいます。でも実際に変わるべきなのは、人格ではなく環境との組み合わせであることがほとんどです。
「続かない自分」を責める前に、まず立て直したいのは自己肯定感のほうです。輪の外に出る最初の一歩は、原因を人格ではなく環境に置き直すことだと感じます。
なお、この記事はASD特有の「続かなさ」に焦点を当てています。不注意や衝動性、先延ばしといったADHDの特性で悩んでいる方、あるいはADHDとASDの両方の傾向がある方は、ADHDで仕事が続かない原因と対策のほうがより当てはまるはずです。
ここからは、ASDの特性が職場でどう「続かなさ」につながるのかを、5つに分けて見ていきます。当てはまるものがいくつあるか、確認しながら読んでみてください。
ASDのある方がもっとも疲れやすいのが、はっきり言葉にされない「察してね」の世界です。
定型発達の方が無意識に補完している「文脈」を、ASDのある方は一つひとつ意識的に解読しなければなりません。これは脳の処理として相当な負荷で、一日の終わりにはぐったりしてしまいます。しかも、解読を間違えて「なんで分からないの」と言われると、二重に削られます。
「『常識でしょ』と言われるたびに、自分にはその常識を受信するアンテナが最初からないのかもしれない、と落ち込んでいました」
こういう感覚を持っている方は、性格が悪いのでも怠けているのでもなく、情報の受け取り方が違うだけです。
ASDのある方の多くは、見通しが立つ状況で力を発揮します。逆に言うと、急な予定変更やイレギュラーな事態は、想像以上に大きなダメージになります。
定型発達の方なら「まあ、よくあること」で流せる変化でも、ASDのある方は頭の中の段取りが一度崩れると立て直しに時間がかかります。これが続くと、職場全体が「いつ地面が揺れるか分からない場所」に感じられ、常に緊張していなければならなくなります。
これは見落とされがちですが、とても大きな要因です。
感覚過敏のある方にとって、こうした刺激は「気にしすぎ」ではなく、実際にエネルギーを削り取っていく負荷です。仕事の中身に取りかかる前に、環境のノイズに耐えるだけで体力を使い果たしてしまう。だから定時を待たずにヘトヘトになり、「自分は体力がない」と誤解してしまうのです。
「仕事の中身ではなく、環境に耐えるだけで疲れ切ってしまう」という感覚に覚えがある方は、この刺激の問題を軽く見ないでほしいと思います。あなたの体力の問題ではありません。
ASDのある方の中には、職場で「普通に見えるように」自分を演じ続けている方がいます。表情をつくり、雑談に合わせ、本音を飲み込み、定型発達の人のふるまいを真似る。これは「マスキング(カモフラージュ)」と呼ばれることがあります。
問題は、このマスキングが本人にしか見えない形で大量のエネルギーを消費することです。周りからは「ちゃんとやれているじゃない」と見えるので、しんどさが伝わりません。本人だけが、家に帰った瞬間に動けなくなるほど疲れている。
仮面をかぶり続けて消耗し、ある日ぱたっと電池が切れる。「急に来られなくなった」ように見えて、実は限界まで頑張った結果だった、というケースは珍しくないと感じます。
ASDのある方は、自分なりの正しい手順や品質基準を強く持っていることがあります。これは大きな強みにもなりますが、職場のやり方と衝突すると摩擦の種になります。
本人は手を抜けないだけなのに、「融通が利かない」「めんどくさい人」と受け取られてしまう。この食い違いが積み重なると、居場所がなくなって退職につながります。
ここまで読んで、思い当たる原因はいくつありましたか。
大事なのは、これらが「直すべき欠点」ではなく「対応すべき特性」だということです。特性そのものをゼロにはできませんが、特性と環境の付き合い方は変えられます。次の章から、その具体的な方法を見ていきます。
「もう同じことを繰り返したくない」「次こそ続く場所を見つけたい」と感じているなら、ASDの特性を理解した転職エージェントに、現状を整理する相談から始めるのも一つの手です。
原因が特性と環境のミスマッチなら、打ち手は2方向あります。いまの環境とのズレを減らす工夫と、そもそも合う環境を選び直すことです。まずは前者から、今日から試せるものを紹介します。
ASDのある方にとって、いちばん効く対策は「自分の特性を、自分と周囲が分かる形に言語化しておくこと」だと私は考えています。私もADHDの当事者として、これに何度も助けられてきました。
頭の中だけで「自分はこういうのが苦手」と思っていても、いざ必要なときには伝えられません。だから、紙やメモアプリに書き出しておくのです。たとえばこんな項目です。
項目 | 書き出す内容の例 |
|---|---|
得意・力を発揮できること | 一人で集中できる作業、正確さが求められる仕事 |
苦手・消耗すること | 曖昧な指示、急な予定変更、雑音の多い環境 |
あると助かる配慮 | 指示は口頭でなくチャットで/手順を文書化してほしい |
限界が近いサイン | 朝起きられない、音に耐えられなくなる |
回復に必要なこと | 一人になる時間、静かな場所 |
ここまで言語化できると、上司への相談も、面接での説明も、格段にやりやすくなります。最初から完璧に書こうとせず、過去にうまくいかなかった場面を一つ思い出して、「何が引き金だったか」をメモするところから始めると、自然と項目が埋まっていきます。
「配慮をお願いするなんて、わがままなのでは」と感じる方がいるかもしれません。でも、これは正当な権利です。
2024年4月に改正障害者差別解消法が施行され、それまで努力義務だった事業者(民間企業)による合理的配慮の提供が、法的な義務になりました(内閣府・政府広報オンライン)。つまり、障害のある方が働くうえでの障壁を取り除くための調整を、会社は無視できなくなっています。
ASDのある方が職場で求めやすい配慮には、こんなものがあります。
ポイントは、「つらいです」という感情論ではなく、「こうしてもらえると成果が出せます」という形で具体的に伝えることです。配慮は会社へのお願いであると同時に、会社が戦力を活かすための投資でもあります。先ほど作った「取扱説明書」が、ここでそのまま申請の材料として役立ちます。
ASDの特性のうち、「曖昧さに弱い」「変化に弱い」は、仕事を「構造化」することでかなり和らげられます。構造化とは、やるべきことを目に見える形に整理して、迷う余地を減らすことです。
イレギュラーをゼロにはできませんが、「決まっている部分」を増やしておくほど、突発的な変化に使えるエネルギーの余裕が生まれます。
ここまでの工夫を全部やっても、どうしても消耗が止まらない職場はあります。
正直に言うと、いちばん効くのは「合う環境に移ること」です。ASDのある方は、環境によってパフォーマンスが本当に大きく変わります。同じ人が、騒がしいオフィスでは潰れかけ、静かでルールが明確な職場では戦力になる、ということが普通に起こります。
合わない場所で消耗し続けて自己肯定感を削るより、配慮を受けられる環境へ移るほうが、結果的に「長く働く」という目標への近道になることが多いと感じます。我慢して同じ場所にとどまることだけが、誠実さや努力ではありません。
もちろん、いきなり転職に踏み切る必要はありません。「合う環境」を見極める観点はいくつもあります。
こうした観点で環境を見極める具体的な方法は、ASD(自閉スペクトラム症)の転職完全ガイドにまとめています。この記事が「なぜ続かないのか」の原因編だとすれば、あちらは「どう選び、どう動くか」の実践編です。
在宅・リモートという選択肢も、感覚過敏や対人疲れの強い方には相性が良いことがあります。通勤刺激がなく、人との距離も自分で調整しやすいからです。働き方そのものを変える視点は、ASDの在宅勤務完全ガイドで詳しく扱っています。
転職活動に踏み出すなら、ASDのある方の働き方を理解したエージェントに相談しておくと、求人票だけでは分からない職場の実情まで確認してもらえます。
「次こそ合う環境を」と言われても、いまは心も体も限界で、転職活動どころではない。そういう方もいると思います。
その場合は、無理にすぐ動かなくて大丈夫です。退職後や休職後に、まず生活のリズムと自信を取り戻すための選択肢があります。それが就労移行支援です。
就労移行支援とは、障害のある方が一般企業への就職を目指して、スキルや働く土台を整えるための福祉サービスです。生活リズムの立て直しから、自分の特性の理解、ビジネススキルの習得、就職活動のサポートまで、段階を追って支援してもらえます。ASDのある方が、安全な環境で「働く感覚」を取り戻す場として使えます。
「いきなり一般企業はこわい」「もう一度自分のペースを取り戻したい」という方は、選択肢として知っておいて損はありません。制度の仕組みや使い方は、就労移行支援とは?で解説しています。
休職中の方や、辞めたばかりで気持ちの整理がつかない方は、焦らないことがいちばん大事です。
ここまで読んで、「次は失敗したくない」「でも一人で職場を見極める自信がない」と感じたなら、専門家の手を借りるのが現実的です。
ASDのある方にとって難しいのは、求人票という限られた情報から「自分に合う環境かどうか」を見抜くことです。音環境、暗黙のルールの多さ、変更の頻度、コミュニケーションのスタイル——こうした情報は、内部を知る人にしか分かりません。発達障害に理解のあるエージェントは、ここを代わりに確認してくれます。
サービス | 特徴 | こんな人におすすめ |
|---|---|---|
障害者雇用の求人数が業界最大級。発達障害に詳しいアドバイザーが在籍 | 選択肢を広く見て、自分に合う環境を比較したい方 | |
障害者転職支援の実績が豊富。入社後の定着支援まで手厚い | 一人での職場見極めが不安で、伴走してほしい方 |
どちらも相談は無料です。いきなり転職を決める必要はなく、「いまの状況を整理したい」という段階からでも使えます。複数に登録して、相性の良い担当者を見つけるのがおすすめです。
すべて無料で利用できます。まずは気軽に相談してみてください。
なお、転職エージェントの違いをもっと比べてから決めたい方は、発達障害向け転職エージェント7社比較で各社の強みを整理しています。
最後に、この記事の要点を振り返ります。
何度も職場を変えてきた経験は、決して無駄ではありません。それは「自分に何が合わないか」を知るためのデータでもあります。次に活かせば、続く場所はきっと見つかります。
合わない靴で走り続ける必要は、もうありません。自分に合う一足を、一緒に探していきましょう。
この記事を書いた人
ADHDと診断されたフロントエンドエンジニアです。地方在住・フルリモートで働いています。ASDの当事者ではありませんが、同じ発達障害の地続きにいる人間として、特性と環境のミスマッチに苦しむ感覚は実感をもって理解しています。
この記事は個人の体験に基づくものであり、医療的なアドバイスではありません。 発達障害の診断や治療については、必ず専門医にご相談ください。 また、記載されている情報は執筆時点のものであり、最新の情報と異なる場合があります。
社会人になってからADHDの診断を受けた当事者。地方在住でフルリモート勤務、年収800万円のフロントエンドエンジニア。転職5回の経験から、発達障害のある方のキャリア形成に役立つ情報を発信。
運営者情報の詳細を見る発達障害で仕事が決まらない、障害者雇用で受からないとつらいですよね。応募しても受からないのは人格や障害の問題ではなく、伝え方やミスマッチ、準備、求人数など対処できる原因がほとんどです。落ちる5つの原因と、内定に近づくための次の打ち手を当事者目線でわかりやすく解説します。
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