
「周りと同じことをしているはずなのに、なぜ自分だけこんなに疲れるんだろう」。「ちゃんとできているように見せているけれど、家に帰るとぐったりして動けない」。
そんな感覚を、何年も抱えたまま過ごしてきた女性は少なくありません。
職場では笑顔で受け答えして、ミスをしないよう人一倍チェックして、空気を読んで合わせて。表面上はうまくやれているように見える。それなのに、心と体はいつも限界ぎりぎり。この「見えない疲れ」の正体に、大人になってから初めて向き合う女性が増えています。
最初にお伝えしておくと、運営者である私自身はADHD(注意欠如・多動症)と診断された男性のエンジニアで、女性当事者ではありません。ですので、この記事では女性当事者の心情を「自分の体験」として語ることはしません。代わりに、研究や臨床の現場で指摘されていること、そして私の周囲にいる女性当事者がよく語っていることを軸に、できるだけ事実に近い形で整理していきます。
この記事を読むと、女性のADHD・ASDが大人になるまで見逃されやすい理由、女性に多い仕事の困りごと、そして気づいたときに何ができるのかがわかります。
女性のADHD・ASDが大人になって気づくとは、子どもの頃には困りごとが目立たず、社会に出てから「周囲に合わせ続ける負担」が限界に達して、初めて自分の特性に気づくケースを指します。背景には、女性が周囲に同調するカモフラージュ(過剰適応)を行いやすく、特性が表面に出にくいことが指摘されています。
ここで用語を整理しておきます。ADHD(注意欠如・多動症) は不注意・多動性・衝動性を特徴とする発達障害、ASD(自閉スペクトラム症) は対人コミュニケーションの難しさやこだわりの強さ、感覚の過敏さなどを特徴とする発達障害です。いずれも生まれつきの脳機能の特性であり、本人の努力不足や性格の問題ではありません。発達障害の医学的な解説については、国立精神・神経医療研究センターのこころの情報サイト(発達障害)が参考になります。
大事な前提として、ここで紹介する内容は診断ではありません。「当てはまる気がする」と感じても、それだけで発達障害だと断定はできません。診断ができるのは医師だけです。あくまで、自分の特性を理解し、必要なら相談を考えるための材料として読んでください。
発達障害は、長いあいだ「やんちゃで落ち着きのない男の子」のイメージで語られてきました。研究データの多くも男性を中心に積み重ねられてきたため、女性に見られやすい特性の像が十分に共有されてこなかった、という事情があります。
これにはいくつかの理由が重なっていると指摘されています。
まず、女性のADHDは、多動性が目立ちにくく、不注意が中心になりやすい傾向があるとされています。教室で走り回るような分かりやすい行動より、「ぼんやりして話を聞いていない」「忘れ物が多い」といった内向きの困りごとのほうが多いため、周囲から「ちょっとおっとりした子」「マイペースな子」として受け流されてしまいがちです。
次に、女性のASDは、自分の特性を意識して補おうとする傾向が強いと指摘されています。たとえば、友達の表情や会話を観察してまねをする、人気のあるキャラクターを演じる、台本のように受け答えを用意しておく。こうした工夫によって、対人面の困難が表面に出にくくなります。
そして、社会から女性に向けられる「気配りできて当たり前」「協調性があって当たり前」という期待も影響します。求められる振る舞いに必死で合わせているうちに、本来感じている困難が見えなくなってしまうのです。
その結果どうなるか。子どもの頃は「大人しい子」「いい子」で済み、学生時代も周りが枠組みを用意してくれるためなんとか乗り切れる。ところが社会に出て、自分でスケジュールを組み、複数の業務を並行し、複雑な人間関係を泳がなければならなくなった途端、それまで隠れていた困りごとが一気に表面化します。
実はこの「学生時代はやり過ごせたのに、働き始めて崩れた」という流れは、性別に関係なく起こります。私自身も、学生のうちは親や時間割が枠組みを作ってくれていたおかげで、自分の不注意に気づきませんでした。会社に入って、自分でタスク管理をしなければならなくなった瞬間に、報告漏れや締め切りの飛ばしが止まらなくなったのです。女性の場合は、ここにカモフラージュという要素が加わることで、限界に達するまで本人も周囲も気づきにくい、と説明されることが多いようです。
ここまで読んで、思い当たる節はありませんか。「自分も、ずっと無理して合わせてきた気がする」。もしそう感じたなら、次の章で語る「カモフラージュ」の話が、きっと腑に落ちるはずです。
女性の発達障害を語るうえで欠かせないのが、カモフラージュ(過剰適応とも呼ばれます)という考え方です。
カモフラージュとは、発達障害の特性による困難を、本人の努力や工夫で隠したり補ったりする振る舞いを指します。意識的に行われることもあれば、無意識のうちに身についていることもあります。ASD・ADHD女性の社会的カモフラージュに着目した研究も進められており(ASD・ADHD女性における社会的カモフラージュ傾向に関する研究)、女性に多く見られる傾向として注目されています。
具体的には、こんな振る舞いが挙げられます。
これらは決して「ずるい」ことでも「嘘をついている」ことでもありません。むしろ、周囲に溶け込み、自分を守りながら生きていくための、切実な生存戦略です。
問題は、その代償です。カモフラージュには膨大なエネルギーが要ります。常に周囲を観察し、自分を演じ、反応を計算し続けるわけですから、心も体も休まりません。周囲には適応できているように見えるのに、本人は人知れず消耗していく。家に帰った途端に動けなくなる、休日はベッドから出られない、という女性当事者の声をよく耳にします。
そして、この消耗が続くと、「自分は周りのように自然にできない」という感覚が積み重なり、自己肯定感が大きく下がっていきます。さらに無理を重ねた結果、うつ病や不安障害、摂食障害といった二次障害につながり、その治療で受診したときに初めて背景の発達障害に気づく、という流れも少なくないと指摘されています。
自己肯定感の問題は、発達障害のある方に共通して起こりやすいテーマです。「自分はダメだ」という感覚との向き合い方については、発達障害で自己肯定感が低い原因と高め方で詳しく書いていますので、あわせて読んでみてください。
ここからは、仕事の場面に絞って、女性のADHDに見られやすい困りごとを整理します。あくまで「こういう傾向が指摘されている」という話で、全員に当てはまるわけではありません。
ADHDの女性は、多動性より不注意が前面に出やすいとされています。職場では、次のような形で現れることがあります。
これらは「能力が低い」のではなく、注意のコントロールや段取りといった特性の問題です。ところが女性の場合、ミスをカバーしようと過剰にチェックを重ね、その負担で別の場所が崩れる、という悪循環に陥りやすいとも言われます。
加えて、ADHDの女性は感情の波や衝動性に悩むこともあります。職場での何気ない一言に強く反応してしまったり、イライラを抑えるのに大きな力を使ったりして、それ自体が疲労の原因になることもあります。
事務職のように、正確さと細かい段取りが求められる仕事で苦しさを感じる女性は多いようです。とはいえ、「事務職は絶対に向かない」という話でもありません。特性との相性や工夫の余地については、ADHDで事務職は向いてない?と、向いている工夫をまとめた発達障害でも事務職で活躍できるを読み比べてみると、判断の材料になると思います。
次に、女性のASDに見られやすい仕事の困りごとです。こちらも傾向の話として読んでください。
ASDの女性は、対人面の困難をカモフラージュで補っていることが多いため、職場では「コミュニケーションに問題はなさそう」に見えることがあります。けれど、本人の内側では次のような負担を抱えていることがあります。
特に感覚の過敏さは、本人が「みんなも我慢しているだろう」と思い込んで言い出せず、ずっと抱え込んでいるケースがあります。蛍光灯のちらつきや電話の音、同僚の話し声が常に気になり、業務そのものより環境への対処で消耗してしまうのです。
こうした困りごとは、働く環境を変えることで大きく和らぐ場合があります。私自身、ADHDの困りごとの多くは、通勤や雑多なオフィス環境がなくなったフルリモート勤務で楽になりました。その実感は発達障害者にとってフルリモートは天国だった件に詳しくまとめています。環境を整えることが、特性そのものより効くことは珍しくありません。
ASDの特性を踏まえて働き方や転職を考えるなら、ASDの転職完全ガイドも具体的な手順の参考になるはずです。
女性の発達障害を考えるうえで、もうひとつ触れておきたいのが、月経や妊娠、育児といったライフステージとの関係です。ここは医療的にデリケートな領域なので、断定はせず、研究で指摘されている一般論としてお伝えします。
月経前のホルモン変動と発達障害の特性については、研究が進められています。発達障害の特性がある女性は、月経前の不快感が強い傾向があると報告されており(神経発達症の特性がある女子高校生は月経前不快気分障害の症状が悪化する/EurekAlert!)、月経前にイライラや気分の落ち込みが強まるという声も聞かれます。
これは「気の持ちよう」の問題ではなく、ホルモンの変動が心身に影響している可能性が指摘されているものです。月経前になると普段以上に集中できない、感情が抑えにくいと感じる場合、それは自分の弱さではなく、体の仕組みが関わっているのかもしれません。
妊娠・出産・育児といったライフイベントも、生活のリズムや段取りが大きく変わるタイミングです。これまでカモフラージュでなんとか保ってきたバランスが、環境の変化で崩れ、そこで初めて困りごとが表面化する女性もいると言われます。
いずれにせよ、こうした不調が続くときは、ひとりで抱え込まず婦人科や精神科・心療内科に相談することをおすすめします。症状の背景を正しく見立てられるのは医療者です。メンタル面の相談先については、厚生労働省のみんなのメンタルヘルスも入り口として役立ちます。
では、「もしかして自分もそうかもしれない」と気づいたとき、何ができるのでしょうか。順番に考えてみます。
いちばん最初にしてほしいのは、自分を責めるのをやめることです。「みんなができることができない自分はダメだ」という思いを、長く抱えてきた方は多いと思います。でも、ここまで読んでいただいたとおり、それは性格や努力の問題ではなく、特性によるものです。原因を知ることは、自分を責めるためではなく、自分を助けるための一歩です。
特性と向き合いたいなら、医療機関で相談するという選択肢があります。診断を受けることには、自分の特性を客観的に知れる、必要なら支援につながれる、といったメリットがあります。一方で、診断には時間や費用がかかり、受けるかどうかは人それぞれの状況によります。
診断を受けるべきか迷っている方は、発達障害の診断を受けるべきかに、メリットや受診の流れ、迷ったときの考え方をまとめていますので、判断の材料にしてください。診断は急いで決めるものではありません。
診断を待つあいだにも、できることはあります。カモフラージュによる疲れは、女性の発達障害に共通する困りごとです。なぜ疲れるのか、どう対処すればいいのかについては、発達障害で仕事が疲れやすい5つの原因と対策が役立つはずです。仕組みや環境でカバーできる困りごとは、思っているより多くあります。
そして、無理を続けて消耗しているなら、働く環境そのものを見直すという選択肢もあります。特性を隠して合わせ続けなくていい職場、自分のペースで働ける環境に移ることで、楽になる方は少なくありません。
ひとりで職場探しをするのが不安なら、発達障害の特性に理解のある転職エージェントに相談するという方法もあります。困りごとを前提にしたうえで、合いそうな職場を一緒に考えてくれます。
ここまで、女性のADHD・ASDが大人になって気づく理由と、仕事の困りごとを見てきました。
女性の発達障害は、不注意が中心だったり、カモフラージュで困難が隠れたりするため、大人になるまで見逃されやすいと指摘されています。周囲に必死で合わせ続けた結果、本人だけが消耗し、自己肯定感を下げ、二次障害にまで至ってから気づくケースも少なくありません。
もしあなたが「ずっと無理して合わせてきた」「みんなと同じことが、なぜか自分だけ何倍も疲れる」と感じてきたなら、それは甘えでも弱さでもありません。長いあいだ、自分を守るために頑張ってきた証だと、私は思います。
ここで紹介した内容は診断ではありません。当てはまる気がしても、結論を急ぐ必要はありません。まずは自分を責めるのをやめて、特性を知り、必要なら専門家に相談する。その順番で、自分を助けるための一歩を選んでいけば大丈夫です。
今日できる小さな一歩から、始めてみてください。
「特性を隠して合わせ続ける働き方に、もう疲れてしまった」「自分に合う職場がどこなのか、ひとりではわからない」。
そんなときは、発達障害の特性に理解のある転職エージェントに相談してみるのもひとつの方法です。いずれも無料で利用でき、診断や手帳の有無にかかわらず、まずは話を聞いてもらうところから始められます。
サービス | 特徴 | こんな方におすすめ |
|---|---|---|
障害者雇用の求人が幅広く、発達障害に理解のあるアドバイザーが在籍 | 選択肢を広く見比べたい方 | |
障害者の転職支援に長く取り組み、就職後の定着サポートにも対応 | 手厚いサポートを受けたい方 |
どちらも無料で相談できます。「まだ転職と決めていない」段階でも、特性の整理や働き方の相談に乗ってもらえます。気負わず、話を聞いてもらうところから始めてみてください。
この記事は個人の体験に基づくものであり、医療的なアドバイスではありません。 発達障害の診断や治療については、必ず専門医にご相談ください。 また、記載されている情報は執筆時点のものであり、最新の情報と異なる場合があります。
社会人になってからADHDの診断を受けた当事者。地方在住でフルリモート勤務、年収800万円のフロントエンドエンジニア。転職5回の経験から、発達障害のある方のキャリア形成に役立つ情報を発信。
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